パトロン募集

僕はある女性のパトロンになっている。
彼女は個人で輸入雑貨業を営んでいる。もともとの出会いのきっかけは援助交際だった。その頃の彼女は、遊ぶお金欲しさに援助交際をしているような女の子だった。そして、僕は若い子の体が目当てなおっさんだった。
援助交際はだいたい一回こっきりで終わるものだが、僕と彼女は結構長い期間続いた。
やがて、出会って1年目くらいの時に、彼女がベッドの中で寝言のように言った。
「独立したいからパトロン募集しようかな」
だったら、僕がパトロンになるよ、と、僕は結構な額を彼女に投資した。彼女は冗談のつもりだったらしいが、僕がお金を用意したことに対して、これは本気で独立しなければ、とその気になったらしい。
開業1年くらいは苦労の連続だったようで僕も援助を続けていたが、今では事業も安定して金銭の授受はなくなっている。だが、僕たちはまだ関係を続けている。金の切れ目が縁の切れ目にはならなかったのだ。
その日、僕は彼女を温泉旅行に誘っていた。近場の温泉で一泊二日のミニ旅行だ。お互いに忙しい立場であり、これくらいがちょうどいい。
パトロンの意味
「温泉は久しぶりだからうれしいな」と、電車に揺られながら彼女は素直に喜んでくれた。
しかし、僕には別の目的があった。
それは、彼女との関係をはっきりさせたかったからだ。
彼女が独立を果たした今、もう彼女がパトロン募集する理由はない。つまり、パトロンとしての僕の役割は終わっている。
彼女は少しずつ僕に返済して来るが、僕はリターンは全く考えていなかった。
なぜ、援助交際なんて関係で知り合った女の子に多額の投資をしたのか、実は答えははっきりしている。
僕は彼女が好きなのだ。セックス対象としてではなく、ひとりの女性として彼女のことが好きになっていたからだ。
だから、返済をしてもらう必要はない。言い方を変えると、返済を終えると彼女との関係が切れてしまうのではないのだろうかとの危惧があったのだ。
彼女にとって僕は単なるパトロンなのか、それ以上のものなのか。
美味しそうに冷凍ミカンを頬張る彼女を見ながら、僕はポケットの中に潜めた指輪のケースをぐっと握りしめた。
この旅行を終える頃には僕たちの関係ははっきりするだろう。
電車がトンネルに入ってふっと車内が暗くなった。すると、彼女がぽつりとつぶやいた。
「パトロン募集はもういいから、次は旦那さん募集しようかな」